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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2014年

コスモス1月号

「スペインへ行こうよ。金婚旅行だ」と夫に誘はれ息を呑みたり

スペインへ旅行をすると決めし夜Tajo(タホ)の川辺に立つ夢を見る

ひつたくりも掏模も多いとおどかされスペイン旅行に影が差したり

密航の初期の移民の住みし小屋狭き板間に薄闇を抱く


コスモス2月号

九歳のカナダ育ちに説明す「こんにちは」の〈は〉を〈わ〉と書かぬ理由(わけ)

東京の〈カナダ・フェアー〉にみつけたりアルバタ産の馬刺し用肉

「カナダ人は馬刺しを食ふよ」と教はりぬ日本の精肉売り場の人に

顎を引き背筋をのばし見えをはるエレベーターの監視カメラに



コスモス3月号

ヘルシンキ目指す機窓に見下せろりまだらに白き冬の原野を

少しづつ地上に灯り増えはじめヘルシンキまであと二十分

ヘルシンキのオリンピックを聴きたりき小さき鉱石ラジオ作りて

おほかたは中年すぎの日本人 ムーミングッズ手にとる客は


コスモス4月号

花びら餅

イル・ディーヴォをヘッドホンに聴き目を瞑る少しやさしくなれさうな午後

うす紅の花びら餅をふたつ買ふ夫との略式初釜のため

「若い」から「若々しい」に変はりたり我のいただく社交辞令が

不整脈をワルツのやうだと笑ひをり気にせぬふりをしていたき友

本郷のかねやす(かねやすに傍点)前で待ち合はす我らの血筋に潜む江戸つ子 


コスモス5月号

赤茶けし厚き和綴ぢの古本にルビのつきたる活字が並ぶ

アマゾンで十万円の値がつきぬ野村清の第一歌集 
              (コスモス叢書8『木犀湖』)

「きみがよ(傍点))をおしえて」と孫に頼まれる羽生の優勝決まりたる時

夜を通し五輪中継見てゐしか夫は昼まで起き出して来ず




コスモス6月号

富士

「クリスマスに富士に登る」と言ひだしぬカナダ人アン四十六歳

子の妻のアンには畏怖の心なし〈世界遺産のマウント・フジ〉に

吹き荒ぶ真冬の富士の厳しさをユー・チューブで見せアンに説きたり

「日本の哲学であり神である」と野村清氏富士を詠(うた)ひき

テキサスの美術館にて玉堂の富士の絵を見き大き屏風の




コスモス7月号

今日にでもに二、三輪なら開きさう国見ケ丘の桜の花は

幾度も読みはじめては挫折せし『古事記』を読まむ 旅を終へたら

どこよりか鶯の声聞こえきて高千穂の朝雨の匂ひす 

「高千穂でうぐひすの声聞いてます」家籠りする友にメールす



コスモス8月号

「ハズバンドが病気ですって?」友よりの見舞ひメールが突然届く

〈重病〉とデマの飛ぶらしいつまでも一時帰国の長引く夫に

上の空でこちらを見ずに「うん」といふ 夫の不機嫌飽和状態

わが次男初めての子に恵まれて四十二歳で父となりたり



コスモス9月号

「昨年と同じだけど」と母の日に息子が鉢植ゑ苺を呉れぬ

薄紅の苺の花はサプライズ! 白ばかりかと思ひしものを

何日も親キツツキが叩きゐし柳の幹に洞三つ開く

薄闇にまんまるの目を瞠(みひら)けり玩具のやうなベビー・キツツキ



コスモス10月号

七月の風をとらへてしばらくを宙に舞ひたり柳(やなぎ)の絮(わた)は

クラス会にスカイプ電話で出席す 病気の友も遠くの我も

ウエブカメラを一巡させて世話役が友十五名見せてくれたり

キツツキの子供が巣より顔を出し風を聴くごと首をかしげる



コスモス11月号

元の妻を〈息子の母〉とさり気なく言ひてけじめをつけをり友は

元の妻を〈息子の母〉と言ひし人近ごろ〈孫のばあちゃん〉といふ

湖の浅瀬に立ちて少年が父とならびて釣をしてをり

釣り糸を垂れて並べる父と子にときがしばしをとどまるごとし  (「とき」に傍点)



コスモス12月号

そよ風にあまたポプラの葉が揺れてスパンコールのやうにきらめく

湖(うみ)岸の草に止まれりそら色の細く小さきルリボシヤンマ

氷河期の山に取り残されたるをルリボシヤンマ今に生き継ぐ

「誕生日に離婚したの」と言ふ友によくわからぬが頷きておく

日没のあとに残れるひとすじの余韻のやうなくれなゐの雲



バンクーバー短歌会

1月 

白黒の「ゲルニカ」の絵に向き合へば見えない筈の赤が見えくる


2月

メンバーの入れ替はりつつ続き来て歌会は二十九年目に入る

久々に会ひたる友がお互ひの老いを比べるごとき目をする


3月

来ぬ春を待ちくたびれた水仙が頭を垂れて霜野に並らぶ

待ちかねし春を迎へて水仙が桜の下で大あくびする


4月 題詠 石

氷河湖の底にしづかに眠らせむ化石となりし若き日の夢

指差されよくよく見れば岩肌にありてひそかな木の葉の化石


5月 

予備校の看板にある大き文字「努力は実る」と断定をする

努力しても実らないのが普通だと悟りてよりの空の明るさ


6月 「畳」

ゆつくりと昔の友と歩きたりバンクーバーの石畳道

ガスタウンの石畳道昏れそめて友と別れる時が近づく


7月 

壁に塗るペンキ買ひきて一カ月まだ手つかずに物置にあり


8月  「風」

眉太く頬の豊かな女人なり屏風に描かれし鳥(とり)毛(げ)立女(りつじょ)は



9月 

半世紀放置されたる崩落のガレ場を走るナキウサギをり


10月 「オノマトペを使って詠む」

チュッチュッチュッ トルルルルルと歌雀 沼地の枝を飛び移りたり


11月

ミシミシと二秒で捻挫せし足の歩めば痛し二十日経ちても

明けきらぬ空に向かひてすつきりと白く咲きたり秋の朝顔


12月 「本」

五十五年前と変らぬ匂ひのす神保町の古本屋街 




東京歌会

風化してまろみ帯びたる石燈籠ぽつてりとあり冬のひだまり(根津美術館庭園にて)


gusts No.19

Too tired of waiting
for the spring,
the daffodils yawn
in the frosty field
dreaming of bees and butterflies



Gusts #20

Suddenly stopped scurrying,
a restless pika,
looked up the sky
as if he saw it
for the first time ever



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